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高松地方裁判所 昭和48年(行ウ)5号 判決

原告 山田チヨ

被告 高松市長

代理人 下元敏晴 泉本喬 大久保孝順 ほか四名

主文

一  本件訴えのうち、第一次的に被告が原告に対して別紙第一目録記載の宅地につき昭和二三年九月七日付をもつてなした換地予定地指定処分の無効確認を求め、第二次的に右処分の取り消しを求める部分及び第一次的に被告が昭和四五年四月一〇日付をもつてなした別紙第三目録記載の宅地を保留地とする旨の決定の無効確認を求め、第二次的に右処分の取り消しを求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  (第一次的請求)

被告が原告に対して別紙第一目録記載の宅地(以下、本件第一の宅地という。)につき昭和二三年九月七日付をもつてなした換地予定地指定処分(以下、本件仮換地指定処分という。)は無効であることを確認する。

(第二次的請求)

本件仮換地指定処分を取り消す。

2  (第一次的請求)

被告が原告に対して本件第一の宅地につき昭和四五年四月一〇日付をもつてなした換地処分(以下、本件換地処分という。)は無効であることを確認する。

(第二次的請求)

本件換地処分を取り消す。

3  (第一次的請求)

被告が昭和四五年四月一〇日付をもつてなした別紙第三目録記載の宅地(以下、本件第三の宅地という。)を保留地とする旨の決定(以下、本件保留地決定という。)は無効であることを確認する。

(第二次的請求)

本件保留地決定を取り消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の答弁

(本案前の答弁)

1 本件訴えのうち第一次的に本件換地処分の無効確認を求める部分及び第二次的に同処分の取り消しを求める部分を除くその余の部分をいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案に対する答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告はもと本件第一の宅地の所有者であつた。

2  しかるところ、被告は、高松都市計画事業復興土地区画整理事業(以下、本件事業という。)施行者として昭和二三年九月七日原告に対して本件第一の宅地につき本件仮換地指定処分(当時は、特別都市計画法適用下にあつたため換地予定地指定処分といつたが、昭和三〇年土地区画整理法(以下、法という。)の施行に伴い、法施行法六条により換地予定地指定処分は仮換地指定処分とみなされるに至つたので、これを本件仮換地指定処分と呼ぶ。)をなし、次いで昭和四五年四月一〇日本件仮換地指定処分に基づき本件第一の宅地を別紙第二物件目録記載の宅地(以下、本件第二の宅地という。)に換地する旨の処分(本件換地処分)をし、またその際従前の本件第一の宅地のうち高松市塩上町字内間一一七七番地の一宅地一、〇七九・三三平方メートルの一部を本件第三の宅地としてこれを高松市の所有とする保留地の決定(本件保留地決定)をし、同年一二月一七日右宅地を高松市の所有として所有権保存登記手続をしている。

なお、本件第二の宅地と本件第三の宅地の総和が本件第一の宅地に相当するものであつて、本件換地はいわゆる現地換地である。

3  しかしながら、

(一) 本件仮換地指定処分は、原告に対する特別都市計画法一三条二項所定の通知を欠くものであるから重大かつ明白な瑕疵があり、原告に対してその効力を生ぜず無効である。仮に、無効でないとしても右処分は取り消されるべきものである。

(二) 本件換地処分には、次の如き重大かつ明白な瑕疵があるので無効であり、仮に、無効でないとしても取り消されるべきものである。

(1) 本件換地処分は本件仮換地指定処分に基づいてなされたものであるところ、右仮換地指定処分には(一)で述べたとおり重大かつ明白な瑕疵があるから、本件換地処分も、また無効であるか取り消されるべきものである。

(2) 本件第三の宅地に相当する部分については、当初の事業計画によると、道路が新設されることとなつていたもののようであるが、仮にそうだとすると、右道路は現在に至るも完成するに至つていないので、右計画が適法に変更されていない限り結局のところ、本件換地処分は法一〇三条二項の規定に違反し本件事業の工事を完了せずになされた点において瑕疵がある。

(3) 本件換地処分は、後記(三)(8)で述べるように、本件保留地決定と表裏一体の関係をなすものであるから、後記(三)の(1)ないし(8)に述べるのと同様の理由により重大かつ明白な瑕疵があるというべきである。

(三) さらに本件保留地決定には、次の如き重大かつ明白な瑕疵があるので無効であり、仮に無効でないとしても取り消されるべきものである。

(1) 仮に、当初の事業計画において定められていた前記道路の建設がその後の適法な事業計画変更により中止になつたとすれば、本件第三の宅地は本来原告の手元に留めておくべき性質のものであつた。

(2) しかるに、昭和四〇年頃、高松市担当職員らはその職権を濫用して「土地を九〇坪出す代りに金五〇〇万円をよこせ」等と何ら理由を明示しないで右金員の交付を要求し原告においてこれを拒絶し抗議すると、自らの前記行動を糊塗するため、右土地部分が保留地決定の対象となるものであり、前記金員が法一〇八条一項所定の保留地の原告に対する売渡金額であるかのような外観を作り出すことに狂奔しはじめた。

(3) すなわち、昭和四四年末頃高松市担当職員である香川区画整理課長、西原同課長補佐、同課多田係長、土地区画整理審議会副会長唐渡清太郎の四名は、原告を右唐渡宅に呼び出し、「金五〇〇万円を市に支払え。これができないなら金四〇〇万円にするからこれを支払え。そうすれば本件第一の土地はそのままにしておく。」と申し向け強いて原告に右金員の支払をする旨の誓約書を提出させた。

(4) ところで、保留地決定をするには被告の内部機関である土地区画整理審議会において議決することを要するものであるところ(法九六条三項)、右審議会に提出する資料としては本来原告に強要して作成提出させた前記誓約書を提出しなければならないのである。しかるに前記担当職員は右誓約書を提出せず原告の印鑑を偽造し、かつ内容も改ざん変更した偽造文書を作成してこれを提出しこれに基づいて右審議会の委員等を騙き同審議会をして本件第三の宅地を保留地と決定する旨の決議をなさしめ本件保留地決定をなさしめた。

(5) 以上述べたように本件第三の宅地につきなされた本件保留地決定は、本来これをなす必要がないものであつたにもかかわらず、前記(2)記載のような自らの職権濫用の事実の発覚を恐れた高松市の担当職員らが、自らの非行を隠蔽せんとして保留地決定ならびに保留地の売却処分という形式を作出せんとする意図のもとになされたものであり、保留地決定に先立ち原告に対しては前記誓約書の作成・提出を強要したばかりか右誓約書に代えて偽造の原告作成名義の誓約書を審議会に対して提出し審議会の委員を欺罔して審議をなさしめこれに基づいて被告は本件保留地の決定をしたものである。

(6) 以上の事情のほか、原告所有の本件第三の宅地のみが他の近隣の所有者の土地とは差別されて保留地決定の対象とされているのであつて、それについては何ら合理的な理由はない。

(7) さらに、法九六条二項によると、換地計画においては土地区画整理事業の施行後の「宅地」の価額の総額が施行前の「宅地」の価額総額を越える場合その差額の範囲内の価額の一定の土地を保留地と定めることができるとされているが、右「宅地」を本件第一の宅地にあてはめて考察するに、本件第一の宅地は本件事業によりその前後においていかなる地価上昇も伴なつていないから、本件第一の宅地のうち本件第三の宅地を保留地とすることは許されない。

仮に、右法文にいわゆる「宅地」が本件第一の宅地ばかりではなく、本件換地計画区域もしくはその工区全体に含まれる宅地を指称しているものだとしても、本件第一の宅地は本件事業により何ら価額の上昇を来たしていないものであるから保留地決定はこれについてなさるべきではなく計画区域内の価額の上昇した原告以外の者の所有宅地についてなさるべきであつたものである。

(8) また、本件においては、本件第一の宅地のうち本件保留地決定がなされた本件第三の宅地相当部分を控除したその余の部分が本件第二の宅地として換地とされている(以上の意味で、本件においては本件保留地決定と本件換地処分とはいわば表裏の関係にあり、実質的に一体として考慮するのが妥当である。)が、本件第二の宅地は本件第一の宅地に比し減歩率は双方の実測面積で一九%となつている。しかしながら、本件事業の結果その幅員を拡張された国道一一号線沿いの宅地(本件第一の宅地と国道一一号線との間に存在する各宅地のことであり、当然その価額の上昇は右国道より遠く離れた宅地よりも大である。)の減歩率でさえ九・七%であるから右国道より離れた場所に存在する本件第一の宅地についての前記減歩率は異常に不公平であつて行政当局に許されている裁量の範囲を逸脱しているものといわざるをえない。つまり公平の観点からは前記国道沿いの土地についての九・七%減歩率を本件第一の宅地について適用したとしてもすでにそのこと自体不公平であるのに、そのおよそ二倍の減歩率を適用するのがいかに不公平であるかは自明であろう。これまた本件保留地決定が恣意的に行なわれた一つの証左といいうる。

(9) さらにまた、前記金五〇〇万円ないし四〇〇万円の金額については、原告は、これまで再三再四市担当職員に対しその算定の根拠を明らかにするよう要求してきたが、今日に至るもこの点につき明確な回答をうるに至つていない。

4  (本件換地処分の取り消し請求及び本件保留地決定の取り消し請求につき、行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間遵守に関する主張)

(一) 本件換地処分は昭和四五年四月一〇日高区第二〇〇号(本件換地処分に対する更正は同年七月七日高区第一五七〇号)をもつてなされたものであるが、原告は、本件換地処分に対しては同年六月九日、右更正に対しては同年九月五日それぞれ適法な各審査請求をなし、さらに、右各審査請求に対するいずれも昭和四六年一一月四日の各棄却の裁決四六計B第三四〇号ならびに第三四一号に対しても、同年一二月二日適法に各再審査請求をなし、いまだこれらについて裁決のなされない段階で本訴提起に及んだものであるから、本件換地処分取り消しの訴えについては行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間を遵守しているものである。

(二) また、本件保留地決定については、独自に右の如き審査請求、再審査請求はなされていないが、前記3(三)(8)で述べたような本件換地処分との特殊な関係からみて、本件換地処分についての前記審査請求等のなされていることでもつて、行政事件訴訟法一四条の要件はみたされているものと解すべきであり、本件保留地決定についても出訴期間は経過していないものというべきである。

5  よつて、原告は、(一)第一次的に本件仮換地指定処分の無効確認、第二次的に同処分の取り消し、(二)第一次的に本件換地処分の無効確認、第二次的に同処分の取り消し、(三)第一次的に本件保留地決定の無効確認、第二次的に同処分の取り消しを求める。

二  被告の本案前の主張<略>

三  請求原因に対する認否<略>

四  被告の主張<略>

五  被告の本案前の主張に対する原告の反論<略>

六  被告の主張に対する認否<略>

第三証拠関係<略>

理由

一  被告は、原告の本件仮換地指定処分の無効確認あるいは同処分の取り消し及び本件保留地決定の無効確認あるいは同処分の取り消しを求める各訴えについて本案前の主張をなし、かつ本案についても争つているが、便宜、まず、本件換地処分の無効確認の訴え(第一次的請求)の当否につき判断する。

1  請求原因1は当事者間に争いがなく、同2は、本件事業の名称の点を除き当事者間に争いがないところ<証拠略>によると、本件事業の名称は、当初高松特別都市計画事業復興土地整理事業であつたのが、その後高松都市計画事業復興土地区画整理事業にかわり、さらに香川中央都市計画事業復興区画整理事業となつたことが認められる。

2  請求原因3(二)(1)の主張について検討するに、たしかに、前記争いのない事実によると、本件仮換地指定処分は換地処分を予定してなされたことが明らかであり、右両者はいわゆる先行処分、後続処分の関係にたつものではあるが、それぞれ独立した別個の行政処分であることはもちろんで、さらに特別都市計画法一三条一項が「……土地区画整理のため必要があるときは、換地予定地を指定することができる。」と規定し、また、法九八条一項が「……換地計画に基づき換地処分を行なうため必要がある場合においては、施行地区内の宅地について仮換地を指定することができる。」と規定しているところによれば、法律上は換地処分をなすためには必ずしもこれに先立つて仮換地指定処分をなすことを要しない建前になつているのであつて、しかも仮換地指定処分は換地処分の効果が発生するまでの間整理事業の円滑な進行と右事業による私権行使の制限を最小限度に止めることを目的として、換地の位置範囲を仮に指定する処分であつて、元来暫定的な効果しかなく、かつ、換地処分にとつては手段的な意味しか有しない行政処分なのであるから、原告が主張する仮換地指定処分の通知の欠缺というような同処分に固有の瑕疵は換地処分の効力に何ら影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。

よつて、この点に関する原告の主張は採用しない。

3  請求原因3(二)(2)の主張について

<証拠略>中には原告主張に副う部分が存在するが、右は同人らのその余の各証言部分に徴し、確たる根拠のない単なる噂の伝え聞きか思い込みに過ぎないものであることが明らかであるから採用できず、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

かえつて、<証拠略>によれば、本件事業当初の昭和二三年度における道路設置計画を示す図面(<証拠略>)には本件第三の宅地に相当する土地部分につき道路を設置するような記載はなく、この点は昭和四四年度最終事業計画の設計図(<証拠略>)においても同じであつて、本件第三の宅地の存する場所に道路を設置する計画は事業の開始から終了に至るまでの間存在しなかつたものと認められる。

従つて、原告の右主張は理由がない。

4  原告は、また、本件保留地決定の無効事由として主張する請求原因3(三)の(1)ないし(9)の主張を本件換地処分の無効事由としても主張するので、以下、これらについても便宜順不同で検討する。

(一)  まず、請求原因3(三)(8)について判断する。

法八九条一項は「換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない。」(照応の原則)と規定するところ、ここに「照応」というのは、以上のような土地の諸要素を総合的に勘案して換地が従前の土地と大体同一条件をもつものであり、多数の権利者間においても均衡がとれ、おおむね公平である、ということと解するのが相当である。しかし、この照応に完璧、絶対を要求することは本質的にも技術的にもほとんど不可能なことであるから、法も多数の権利者間には、多少の不均衡の生ずることを当然のこととして予定し、これを是正するために清算金の制度を設けているのである。

従つて、換地処分が右照応の原則に反して違法とされるのは、単に換地が従前の土地に比較して差等があるというだけでは足りず、ことさらに特定の者の不利益を計つたとか、または近隣の土地と比較して著しく不利益なものでそのことについて合理的理由がない場合でなければならないと解するのが相当である。

そして、原告の換地後の土地と比較して近隣の土地の方が換地による価格上昇が高くかつ減歩率が低いので本件換地処分が違法である旨の原告の主張も、結局本件換地処分が照応の原則に反して違法であることをいわんとするものと解されるから、以下本件換地処分につき照応の原則違反の有無を判断する。

<証拠略>並びに前記当事者間に争いのない事実を総合すれば、次の事実が認められる。

本件事業はもともと高松市の戦災復興を目的として開始されたもので、昭和二一年六月頃旧都市計画法に基づき区画整理の都市計画の決定がなされたことに始まるのであるが、事業計画において道路公園等の公共施設の位置範囲を決定した後で換地の位置範囲を計画する換地設計手続の際、各従前地の公簿面積から一定の減歩率分を差し引いた地積の土地を、従前地の位置になるべく照応するよう割当てる、いわゆる面積方式が採用されたこと、そして、この方式によるときは、換地による地価上昇率の点で土地所有者間に不均衡が生じることが避けられないので、これを清算金の交付徴収により解決することとしたこと、ところで、換地設計の他の方式としては、各従前地の価格評価に見合うように換地を定め、換地間に価値の均衡を保ついわゆる評価方式、あるいは面積方式と評価方式の折衷方式が存するが、本件事業においては戦災復興を急がなければならない事情にあつたため従前地の各筆ごとの価格評価を行う時間的余裕がなく、やむをえず、面積方式を採用したものであつたこと、そして右換地設計に基づき各従前地に対し仮換地指定処分及び換地処分がなされたこと、換地交付の標準となるべき従前の土地の各筆地積は、法の規定に基づき高松市が本件事業につき定めた施行細則をもつて、「昭和二一年九月九日現在の土地台帳地積による。但し、施行者において必要があると認めるときは実測地積による。」とされており、施行者たる被告が原告の従前地たる本件第一の宅地について標準地積と実測地積によるべき必要を認めたことはなかつたこと、そして従前地たる本件第一の宅地の台帳地積に対する換地たる本件第二の宅地の減歩率を計算すると一二・二八%であること、また本件第三の宅地は従前地たる本件第一の宅地の一部であり、本件はいわゆる現地換地であること、次に原告の従前地と同一ブロツク内に土地を有していた者の減歩率を本件証拠上顕われている範囲に限つてみると、竹内義則所有の従前地二〇一・五〇平方メートル(以下、従前地はいずれも公簿面積によると思われる。)が一五〇・七五平方メートルの換地となり減少率二五・一九%、稲正雄の従前地一六五・六四平方メートルが一六六・〇二平方メートルの換地(但し、うち五三・九九平方メートルは他ブロツクへの飛換地)となり、増加率〇・二三%、三村寛の従前地が三九七・三六平方メートルが二九六・四四平方メートルの換地となり減少率二五・四〇%、松本国雄の従前地二六三・二七平方メートルが二二一・六八平方メートルの換地となり減歩率一五・八〇%、三村スミエの従前地七〇・三二平方メートルが六一・〇四平方メートルの換地となり減歩率一三・二〇%、以上のとおりであつて、これら近隣の者に比較しても原告の従前地に対する減歩率は平均的な数値であること、そして昭和四五年一月二七日付認可の最終事業計画における原告の従前地の存する第一工区の平均減歩率は一五・五六%であり、全工区の平均減歩率は一四・五六%であつたこと、また本件換地処分に伴う清算金の算定に当つて、従前地たる本件第一の宅地の評定指数は、昭和二〇年七月二〇日の現況により七四万二、八五四、換地たる本件第二の宅地の評定指数は換地処分時の現況により五七万一、〇七九とされ、一見原告所有地の価値が換地によつて減少したような形となつたが、これについては、清算金算定の際の換地の評定において、区域全体の清算金の徴収交付を差引き零にするため、換地処分による区域内の総宅地の平均価値上昇率分を控除して評定した事情があり、原告の場合実際には周囲の道路状況等も昭和二〇年当時に比べればかなり改良されているので、前記数字の差に相当する価値の減少が存するとは思われないこと、

以上の事実が認められる。

そうすると、原告の本件従前地の減歩率が近隣の土地あるいは工区全体と比較しても著しく不利益なものとは到底いうことができないし、また、前記のとおり清算金の算定過程において原告に対する換地の価格評価が従前地のそれより少額であつたのに対して、仮に近隣の換地の価格評価が従前地のそれを大きく上回つている事実が存在するとしても、それは本件換地設計において面積方式を採用したことの当然の帰結に過ぎず、面積方式の採用が前記のとおり戦災復興のためにやむをえないものであつたとして是認しうる以上致し方ないというほかはない。さらにまた、本件においては、本件換地処分が原告という特定人に対して故意になされた不利益な処分であつたことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本件換地処分には照応の原則に反する違法は存しないというべきであり、従つて原告の前記主張は採用できない。

(二)  次に、請求原因3(三)(1)及び(6)の主張につき検討するに、右主張は、結局のところ、原告に対し本件第二の宅地と合わせて、本件第三の宅地も換地として指定されるべきであつたとの趣旨と解されるが、前示のとおり従前地たる本件第一の宅地と換地たる本件第二の宅地は法八九条の照応の原則に適合していると認められるのであるから、右主張も理由がない。

(三)  次に、請求原因3(三)(2)ないし(5)、(7)及び(9)の各主張についてみるに、これらは、いずれも本件保留地決定のみに関する主張と解すべきものであつて、たとえ、本件のように従前地の一部に換地がなされ残余の部分に保留地決定がなされた場合にあつても、保留地決定と換地処分とがその目的、要件及び効果を異にする全く別異の処分であることを考えると、右の各主張については本来、判断する必要はないものというべきである。しかしながら、原告は、本件審理の過程において、この点を重視し、極力、強調しているのでこれらの主張についても判断を加えることとする。

(1) 請求原因3(三)(7)についてみるに、本件保留地決定が法九六条二項に基づきなされたことは当事者双方の主張に徴し明らかであるが、この場合の保留地は、同項に明らかなとおり、土地区画整理事業施行後の宅地価額の総額が事業施行前の宅地総額を超える場合であればその差額に相当する金額を超えない範囲内で一定の土地を定めることができるのであり、換言すれば、事業施行前と施行後との時点に分けて対比すべきものとされるのは、事業施行区域内におけるすべての宅地の全評価額であるところ、これに反し、保留地として定めようとするある特定の宅地の価額が事業施行後に施行前の価額を超える場合でなければ保留地決定はなしえない旨の原告の主張は、独自の見解というべきであり採用できない。

そして、<証拠略>によれば、本件事業後の宅地総額は事業施行前の宅地総額を超えており、その差額に相当する金額を超えない範囲内において本件保留地決定はなされたと容易に認められる。

(2) 請求原因3(三)(2)ないし(5)についてみるに、<証拠略>によれば、本件第三の宅地は、昭和二三年九月七日付で本件第一の宅地に対して本件第二の宅地への仮換地指定がなされた後は未指定地であつたが、同土地上に原告所有の建物が存在し換地処分の際の移転問題を残していたところから、高松市当局は昭和四〇年以前から同土地を保留地決定したうえ原告へ売却処分して問題を解決するという方針で原告と度々交渉を行ない、その後本件事業の土地区画整理事業審議会副会長唐渡清太郎もこの問題解決の仲介役となり、さらに交渉を進めていたこと、そして昭和四四年一一月一三日右唐渡の自宅に原告の夫である代理人山田勇、市当局の香川区画整理課長、西原同課長補佐外一名及び右唐渡が集まり、その席で山田勇は、本件第三の宅地を保留地として代金四〇〇万円で高松市から買受けることを承諾し、右代金を昭和四五年二月二八日までに支払う旨約すとともに、原告が本件及び高松市中野町、同藤塚町に各所有する土地の換地問題につき被告市長になした異議申立て及び土地返還請求の申立を取下げる旨約し、さらに右唐渡が原告の右約束事項の履行を保証するということに話がまとまつたので、右西原が高松市の用紙に、被告市長宛の誓約書(<証拠略>)という形で右山田、唐渡両名の前記意思表示の内容を記載し、これに山田、唐渡が押印したこと、ところで右の四〇〇万円という売買代金額は、高松市当局が原告との交渉に当つて原告への売却が随意契約によつてなされることを前提としたうえ、同土地を当時の時価等を参考にして一平方メートル当り五万円程度と評価し、評価額から同土地が原告所有とならない場合の地上物件の移転補償費を控除する等諸事情を考慮した結果によつて提示した額であつたこと、そして前記土地区画整理審議会は同年一一月二五日から同月二九日まで開かれた会議において原告の右誓約の事実報告を受けて本件第三の宅地の保留地決定に同意の議決をなし、その後被告市長は同土地につき保留地決定をしたが、原告が前記の約定に反して代金を支払わず再び本件換地処分等に不服を申立てるようになつたため、本件第三の土地は換地処分の公告により高松市の所有となつたままであること。

以上の事実が認められ、<証拠略>中右認定に反する部分は、右認定に供した前掲各証拠に照らし措信できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

また、右認定の域を超えて原告が主張する高松市当局の職員が職権を濫用して原告に対し金員を要求したとか、原告に誓約書の提出を強要したとか、あるいは誓約書を偽造したとかの事実、さらに、土地区画整理審議会の審議が偽造の誓約書に基づいてなされたという事実を認めるに足りる証拠はない。<証拠略>中原告の右主張に副う部分は<証拠略>に照らし措信できない。

以上認定の事実関係に徴すれば、請求原因3(三)(2)ないし(5)の主張は理由がないことが明らかであり、請求原因3(三)(9)については右認定のとおり本件第三の宅地の代金額決定につき何ら違法の点は存しないのであるから、これまた理由のない主張というべきである。

そうすると、原告が本件換地処分の違法事由として主張する請求原因3(三)(1)ないし(9)の事実は、これを個別にみても、また全体としてみても本件換地処分の違法事由とはならず、従つてこれを理由とする請求は失当であるというほかはない。

以上に認定判断したとおりであるから、本件換地処分無効確認の訴えは理由がないというべきである。

二  そこで次に、第二次的請求である本件換地処分取消の訴えについて判断するに請求原因4(1)の事実は当事者間に争いがないので、右訴えが行政事件訴訟法一四条所定の出訴要件を満たしていることは明らかである。しかしながら、原告が本訴の違法事由と主張するところは、右処分の無効確認の訴えにおいて違法事由として主張するところと全く同一であるから、これに対する当裁判所の判断も右無効確認の訴えの判断として示したところと全く同じである。

従つて、右処分の取り消しの訴えも理由がないというべきである。

三  次に、本件仮換地指定処分無効確認の訴え(第一次的請求)及び同処分の取り消しの訴え(第二次的請求)に関する被告の本案前の主張を検討する。

<証拠略>、前記一、1記載の当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、本件第一の宅地については被告により原告に対し昭和二三年九月七日付で本件仮換地指定処分がなされ、次いで昭和四五年四月一〇日付で本件第二の宅地へ換地する旨の本件換地処分がなされ、右処分は同日付通知書をもつて原告に対し通知され同年五月一九日右処分の公告がなされたことが認められる。

そして、前記一において説示したとおり本件換地処分が適法に効力を生じていることが明らかであるから、原告が従前地たる本件第一の宅地上に有していた権利は、法一〇四条一項の規定により右換地処分の公告の日の翌日から換地たる本件第二の宅地上にその同一性を維持しながら移行したものといわざるをえない。そうすると、本件仮換地指定処分は、そもそも換地処分の効果が発生するまでの間使用収益関係を仮に設定することを目的としていたのであるから、その効力はすでに消滅したものである。

従つて、今、仮に本件仮換地指定処分を無効とし、あるいは取り消してみたところで、原告がいかなる法律上の利益を回復するものでもないことは明らかであるから、本件仮換地指定処分の無効確認あるいは取り消しを求める本件訴えは行政事件訴訟法三六条あるいは同法九条に照らしいずれも訴えの利益を欠く不適法なものといわねばならない。

従つて被告のこの点に関する本案前の主張は、理由があるというべく、原告の本件仮換地指定処分無効確認の訴え及び同処分取り消しの訴えは、その本案につき判断を進めるまでもなく、却下を免れない。

四  最後に、本件保留地決定無効確認の訴え及び同処分取り消しの訴えにつき被告の本案前の主張を検討するに、前示のとおり、本件換地処分は有効であつて、原告が従前地たる本件第一の宅地上に有していた権利は、本件換地処分の公告の日の翌日から換地たる本件第二の宅地上にその同一性を維持しながら移行したのであるから、本件第一の宅地から本件第二の宅地を差引いた残余の宅地に相当する本件第三の土地につき、原告が従前有していた権利はすでに消滅したものというべきである。

従つて、今、本件保留地決定の無効を確認しあるいはこれを取り消してみたところで、原告は、本件第二の宅地に対する権利を保全しえないことはもちろんいかなる法律上の利益を回復するものでもないから、本件保留地決定の無効確認あるいは取り消しを求める本件訴えは前同様行政事件訴訟法三六条あるいは同法九条に照らし、いずれも訴えの利益を欠くものというべく、本案につき判断を加えるまでもなく不適法として却下さるべきである。

五  以上に判断したとおりであるから本件訴え中、第一次的に本件換地処分の無効確認、第二次的に同処分の取り消しを求める部分は、いずれも失当として棄却し、その余の部分はいずれも不適法なものとして却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上明雄 打越康雄 田中哲郎)

別紙 第一目録、第二目録、第三目録<略>

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